catch-img

IPKVMとは?知っておくべきメリットとデメリット

現代のネットワークで繋がることが当たり前の社会において、遠隔操作技術は重要な役割を果たしています。中でも、IPKVM(Keyboard, Video, Mouse over IP)は、その利便性と堅牢な仕組みにより、幅広い業界で注目されています。
 
IPKVMの機器を、遠隔操作したいコンピュータや設備(以下、ターゲット端末)に設置いただくことで、各ターゲット端末がある現場にいなくても操作が可能となり、生産性の向上や省人化に大きく貢献できます。しかし、多くの人々にとってIPKVMの具体的な機能やメリット、デメリットについては未知の領域かもしれません。
 
そこで、このブログではIPKVMの基本的な概念から、その利用に伴うメリットとデメリットについて、分かりやすく解説します。


目次[非表示]

  1. 1.IPKVMの概要
  2. 2.IPKVMの仕組み
  3. 3.リモート作業でIPKVMを利用するメリット
  4. 4.IPKVMと従来のKVMとの違い
  5. 5.IPKVMのセキュリティの安全性
  6. 6.IPKVMの使用事例
  7. 7.IPKVMを使用するにあたってのデメリットと注意点
  8. 8.まとめ


IPKVMの概要

IPKVMは、IPネットワークを利用することで、遠くにあるターゲット端末を操作するための仕組みです。この仕組みを使うと、遠く離れた場所にあるモニタ、キーボード、マウスを使い、ターゲット端末の画面の表示を確認しながら操作することができます。
 
簡単に言うと、IPKVMは遠くのターゲット端末コンピュータの画面を「ビデオ」としてあなたのターゲット端末に送ります。そして、あなたがいる場所からキーボードやマウスで行う操作は、その遠くのターゲット端末に伝えられ、まるでそこにいるかのように操作できます。

たとえば、ある会社が複数のオフィスを持っているとします。その会社のIT担当者は、自分のオフィスから離れた場所にあるサーバの状態をチェックしたり、問題を直したりすることができます。これは特に多くのサーバを管理する必要がある場合に非常に便利です。

IPKVMの仕組み

IPKVMの仕組みは、IPネットワークを使って、遠くにあるターゲット端末を操作するというものです。この仕組みはどのように機能するのでしょうか?それを理解するには、まずIPKVMの主要なコンポーネントを見てみましょう。

①ターゲット端末側

ターゲット端末には送信機(トランスミッタ)と言われる機器を設置します。この送信機は、ターゲット端末のキーボード、マウスなどのUSB信号と映像信号、音声信号をIPパケットに変換し、IPネットワーク側へ送信する役割を果たします。


②ネットワーク

送信機からのIPパケットは、LANケーブルや光ファイバで接続された一般的なL2スイッチやルータなどを経由し、対向側にあるIPKVMに送られます。この間の経路には、VPN回線や専用線を使うこともできますので、より安全に遠隔操作環境を構築することが可能です。


③操作側

操作側では受信機(レシーバ)にキーボード、ビデオ、マウスを接続して使用します。遠隔地から送信機を介して送られたIPパケットは、受信機によって元の信号に変換されています。受信機にUSBメモリやカード/生体認証装置などを接続することで、ターゲット端末に接続したのと同じように利用することができます。



以上がIPKVMの仕組みとなります。これにより、技術者は遠隔地のシステムを監視し、必要なメンテナンスやトラブルシューティングを行うことなどが可能となります。


リモート作業でIPKVMを利用するメリット

IPKVMの利用は、リモート作業の効率と柔軟性を大幅に向上させることができます。特に、監視やコントロールが重要な環境でのメリットは以下の通りです。


①即時アクセスと迅速な対応

遠隔地からシステムにアクセスすることで、緊急時にも素早く対応できます。これにより、問題が生じた場合の影響を最小限に抑えることが可能です。


②集中管理の実現

複数の場所にあるシステムを一か所から効率的に監視し、管理することができます。これにより、場所ごとの人の配置を減らせ省人化できます。


③ダウンタイムの低減

遠隔地からのトラブルシューティングにより、駆け付けまでの時間を減らし、復旧作業を早めることで、サービスの中断を最小限に留めることができます。


④作業事故の削減

物理的な接触が不要なため、意図せぬ機器の破損や作業中の事故のリスクが低減します。


⑤コストと時間の節約

現地への移動の回数を減らすことで、勤務時間の短縮や移動費の削減で、運用コストが削減できます。


これらのメリットは、システムの運用効率を高めるだけでなく、働き方改革にもつながり、企業の体質強化、競争力の強化に大きく寄与します。

IPKVMと従来のKVMとの違い

これまでIPKVMについて解説してきましたが、それでは従来のKVMとはどのような違いがあるのでしょうか?IPKVMと従来のKVMは、基本的な概念は同じですが、いくつか違いがあります。


①接続方式の違い

♦従来のKVMは、物理的なケーブルを使用して複数のターゲット端末を一つのキーボード、マウス、モニタに接続します。同じ場所で複数のマシンを切り替えて操作できます。

♦ IPKVMは、IPネットワークを介して、離れた場所にあるターゲット端末を接続することができます。


②遠隔操作できる距離

♦ 従来のKVMでは、物理的な距離に限界があり、操作者はKVMスイッチに近い場所にいる必要があります。

♦ IPKVMを使用すると、IPネットワークで接続されていれば、どこにいてもシステムにアクセスし操作することができます。リモートワークや遠隔地からの監視、管理が実現します。


③柔軟性と拡張性

♦ 従来のKVMは、接続できるターゲット端末の数に制限があり、拡張が難しいケースや大きな費用がかかる場合があります。

♦ IPKVMは、1台単位の増設が簡単な仕組みとなっており、またネットワークのポートや帯域を確保することで、千台規模にも拡張が可能です。


以上をまとめるとIPKVMは従来のKVMに比べて、離れた場所からの操作、増設の容易さ、規模の拡張性といった点で大きな利点を持っています。特に、分散した場所にシステムがある場合や、リモートでの監視や操作が必要な環境において、IPKVMの利用は大きなメリットをもたらします。

IPKVMのセキュリティの安全性

IPKVMは、一般的に使用されているソフトウェア型のリモートデスクトップなどの接続に比べて大幅に安全な仕組みを取り入れています。IPネットワークを物理的に分離することでき、ターゲット端末に対して多要素認証の仕組みも確保することができるからです。


①物理的なネットワーク分離

IPKVMの仕組みでは、ターゲット端末のキーボード、マウス、ビデオ出力の信号は直接IPネットワークに接続されません。代わりに、これらの信号はIPKVMの送信機を通じてネットワークに送信されます。送信機とターゲット端末の間はLANケーブルや光ファイバでは接続されておらず、HDMIなどの映像ケーブルとUSBケーブルになるので、IPネットワークは物理的に分離されており、外部からターゲット端末へIPネットワークを経由した攻撃は行えなくなります。

これにより対象のターゲット端末は外部からのサイバー攻撃や不正アクセスから保護され、セキュリティの向上とデータ漏洩のリスク低減が実現されます。


②多要素認証

カード認証や生体認証用の装置をIPKVMレシーバに接続することにより、パスワード入力以上のセキュリティを可能にします。

機密情報が扱われているシステムに利用者がアクセスする際には、パスワードに加えて、社員証や生体認証(指紋や顔認識など)などを組み合わせて使用するのが一般的です。遠隔操作の仕組みによっては、このような運用に対応できなくなる場合がありますが、IPKVMでは現在の運用・セキュリティポリシーを維持したまま、遠隔操作環境を構築できます。


 
このような物理的なネットワーク分離によるシステムの保護と多要素認証による強固なアクセス制御は、特に重要なデータやシステムを扱う場合に不可欠です。

IPKVMの使用事例

ここでは現場でどのように活用されているのかを紹介します。IPKVMの可能性を具体的な例を通して感じていただければと思います。


①コントロールルームでの一元制御・監視

ある公共インフラ企業において、複数の設備やサーバへの遠隔アクセスと効率的な監視が課題でした。IPKVMの導入により、これらの課題を解決しました。



まずIPKVM経由でリアルタイムに複数の設備やサーバを制御することが出来るようになり、運用効率が大幅に向上。特に広大な敷地をもつこの公共インフラ企業において、IPKVMの導入前のように敷地内の移動に時間をかけずに、コントロールルームから設備やサーバの稼働状況の確認と適切な対応が可能になりました。


従来の運用では、設備やサーバが設置されている現場ごとのモニタやキーボード・マウスがあったのが、コントロールルームでの一元監視にまとめたことで、現場からモニタや操作スペースを削減できるため、作業の効率や安全性を高めることができました。


さらに現場の作業員では難しい状況に対応する技術者がほとんどの確認や対処をコントロールルームから実施できるようになったため、現場の待ち時間が減る、技術者の稼働時間を下げることができる効果も発生しています。

>>さらに詳しい内容こちらから
>>使用した製品(Emerald SE)


②24時間/365日の運用と外部からのセキュアなアクセス

あるエネルギー供給のインフラ企業において、より確実に24時間365日の安定した運用を提供するために、関連する設備やサーバの遠隔監視・制御の仕組みを構築する必要がありました。

従来は複数ある拠点すべてに現地に作業員/監視員が常駐し、拠点ごとに業務を継続していましたが、人手不足や働き方改革の影響により省人化を進める必要があり、その解決策がメイン拠点から残りの拠点を遠隔監視/制御でした。IPKVMを導入することで、特定の点検業務などや緊急対応を除き、ほとんどの業務はメイン拠点から出来る仕組みと運用体制を構築しました。

また緊急対応への備えとして、外部ネットワークとなる別拠点や技術者の自宅からの遠隔操作の仕組みを整備。VPNとリモートデスクトップ接続では満たせかったセキュリティリスクの懸念を、IPKVMのネットワーク分離機能をVPNとの組み合わせで活用することで解決しました。
>>さらに詳しい内容こちらから
>>使用した製品(Emerald PE)


③病院内での遠隔からの画像共有の仕組み

病院内といえども、1日に何度も移動するとそれなりに時間が取られてしまいます。医師が普段いる場所とは別の場所で撮影された放射線画像の共有が課題であった医療機関において、IPKVMの導入により解決策を見出しました。

この遠隔操作可能なシステムにより、画像データへのリモートアクセスが可能となり、遅延なく共有できるため、院内を何度も往復する必要がなくなり、多忙な医師と放射線技師の無駄を削減することで、医師と技師は離れた場所でも適切にコミュニケーションを取りながら、診断方針の検討がスムーズに行えるようになりました。

システムの導入にあたり、個人ごとのレントゲン写真が対象となるため、もちろん高いセキュリティが求められましたが、IT機器に慣れていない医師も多くいるため、誰でも簡単に使えるシステムというのも重視されました。
>>さらに詳しい内容こちらから
>>使用した製品(Emerald 4K)


IPKVMを使用するにあたってのデメリットと注意点

これまでIPKVMの多くのメリットを紹介しましたが、いくつかのデメリットと注意点がありますので検討いただく場合の参考にしてみてください。


①ネットワーク依存性

IPKVMの性能はネットワークの品質に大きく依存し、いくつかのパラメータがIPKVMの利用可否や品質に影響します。

一般的には解像度とフレームレートによって動画の品質と伝送するデータ量が決まります。IPKVMの場合には差分圧縮の仕組みによってIPネットワーク側へ伝送するデータ量を抑えていますが、それでもVPNや専用線を経由した外部ネットワークと接続する場合には、帯域が不足する場合もあります。

ネットワークのレスポンスタイムとジッタ値は、特にキーボード・マウスの操作性に直接影響を及ぼします。

IPKVMの導入を進める前に、実際に利用するネットワーク環境を用いて、実際の利用シーンで快適に利用できるのかを確認することが重要です。LTEルータなどのモバイル回線を使う想定されている場合には、テストするキャリアだけでなく、時間や場所によっても実効帯域が大きく変わる点の考慮が必要です。


②初期導入コスト

IPKVMの導入と運用において、主な課題はコストの面です。これらのコストは、特に予算制限がある中小企業やスタートアップにとって、IPKVMの導入の障壁になりえます。
 
解決方法としては、初期導入時点で必要に応じた適切なサイズ、かつ将来の拡張の可能性に柔軟に対応できるソリューションを選択することです。これにより、過剰な機能による不必要なコストを避けるとともに、数年先にシステム全体の入れ替えを選択せざるを得ない事態を防ぐことができます。

初期費用を抑えなくてはいけない事情がある場合には、初期導入時にシステムを一度に導入するのではなく、最も必要な部分から段階的に導入することで初期投資を分散させ、財務的負担を軽減する選択肢を取ることも可能です。


③IPKVMでの遠隔監視/操作による限界

IPKVMを接続しているターゲット端末(コンピュータや設備)の画面が見えない、マウス・キーボードの操作が出来なくなることが発生した場合などに現地での確認が必要なことがあります。


このような時に、なるべく現地での作業を無くすためには、IPネットワーク経由で電源のオフ/オンの仕組みを提供できるインテリジェントPDUと呼ばれる電源タップを検討いただくのもいいかもしれません。

また、コンピュータや設備が正常に稼働しているかの情報を取得・管理するには各種センサーを使ったIoTシステムやSNMPなどが適しています。

これらのデメリットや、他の仕組みで実現すべき点を把握し、IPKVMを他のシステムと適切に連携させることで、IPKVMによる遠隔監視・制御の仕組みをより効果的に活用することができます。

まとめ

このブログでは、遠隔地からターゲット端末を操作する仕組みであるIPKVMについて詳しく見てきました。IPKVMの基本的な概要から始まり、その仕組み、リモート作業でのメリット、従来のKVMとの違い、そしてなぜセキュアな仕組みを提供できるのかを解説しました。

さらに、実際の使用事例を通じてIPKVMでの課題解決・提供価値をできる点を紹介し、最後には使用する際の注意点やデメリットについても触れました。
 
IPKVMは、遠隔監視・制御の仕組みをIPネットワーク化することで、従来のKVMと比較して、距離の制限をなくし、コンピュータや設備のOSや仕様の混在の障壁を解決し、快適な操作と拡張性を提供します。


IPKVMの導入は、特に従来バラバラに管理していたコンピュータや設備を一元的に管理したい企業やコントロールルームの整備を考えている企業にとって、大きなメリットをもたらすでしょう。正しく設定し、運用することで、安全性を高めつつ、省人化を進めることが可能です。



ブラックボックス・ネットワークサービス
ブラックボックス・ネットワークサービス
世界150ヶ国で、情報通信・インフラストラクチャ・製品ソリューションにおける、世界最大規模のプロバイダです。